本稿は『原油備蓄254日分は嘘?生活崩壊を招くナフサ危機Xデイはいつか|防災視点のホルムズ海峡封鎖対策・第2話[そなえるTV・高荷智也』(https://youtu.be/VHEr0CbhNKo)の内容と各種補足報告から再構成した資料です。
こんにちは。備え防災アドバイザーの高です。そなえるTVのシリーズ防災視点、ホルムズ海峡封鎖問題シリーズ第2話ということで、今回のテーマは「原油がなくなったら結局何日持つのか」というお話をさせていただきたいと思います。
今回も、ホルムズ海峡封鎖による家庭への影響と対策という内容でお話ししたいと思います。まず皆様に、前回の動画についてお詫びと反省をお伝えしたいのですが……。
前回、2026年3月14日に公開した「ホルムズ海峡閉鎖 防災視点の状況と対策」という動画の中で、私は次のような発言をしていました。
「政府による3月16日からの原油備蓄の放出。これは早すぎるのではないか。見通しが立っていない状況で安易に在庫を出すべきではない。」
と申し上げました。ただ、これは誤りでした。すみません。私が謝っておりました。このタイミングでの原油在庫の放出は必要なことでしたし、適切なタイミングだったと今は思っています。
3月14日に前回の動画を公開してから、この動画公開まで1週間経ちましたが、ホルムズ海峡を巡る状況はさらに悪化しております。ということで、今回の動画は続編となります。
今、中東からの原油が止まったとしても備蓄が254日分あるらしいから、少なくともこの期間中は普段通りの生活ができるよね、と思いたくなります。私たちが今、パニックを起こさずにいられる寄り所が、この「原油備蓄254日分」というものだと思います。
ところが、実際には254日分の原油在庫はありません。さらに言うと、間もなく3月末頃から目に見える形で影響が出始める恐れがあります。
1. ホルムズ海峡の現状についての最新版
2. 原油254日分は何が254日分なのか
3. 日常生活が崩壊寸前!! ナフサ危機の状況
4. ナフサを簡単に増産できない理由
5. 状況のまとめ:原油がなくなったら結局いつまで持つのかという結論
6. ここはファンタジー小説です。2026年第3次オイルショックが起きる日本レッド
最後:迂回ルートや代替調達は今どうなっているのか
すみません。今回も長いです。劇場版になっています。動画概要欄にこの目次をリンク付きで置いてありますので、是非皆様、ゆっくり見たいところからご覧いただければと思います。
ホルムズ海峡は、平時においては1日あたり100隻を超えるタンカーやコンテナ船が通過している海峡でしたが、2026年2月28日、米軍とイスラエルがイランへ大規模攻撃を行いました。その翌日、3月1日から通過船舶の激減が始まりました。
そして3月20日(動画撮影日現在)まで、1日あたりのホルムズ海峡を通過するタンカーは数隻から0の状況が続いています。ごく一部、メディアの報道などでイランの許可あるいは闇通行による通過船舶の報道もありますが、日本向けの通常の商業船舶・タンカーなどの通行は実質0の状況となっています。
この地図はホルムズ海峡から日本までのタンカーなどの航行時間を示したものです。時間で言うと大体3週間かかります。つまり、2月28日に最後のタイミングでホルムズ海峡を通過して日本に向かっているタンカーは、見かけ上、3週間ぐらいは毎日日本に船が到着し続けている状態です。海の上にはずっと列をなしてタンカーが日本に向かってきています。
なので今、表向きは平常通り船が入港し続けているのが現在の状況です。しかし話は変わります。3月21日、つまり今日です。動画公開をしているのは3月21日ですが、この前後に3週間前にホルムズ海峡を出発した最後の船が日本に到着します。そしてその後はもうありません。
平時でしたら日本からホルムズ海峡まで何十隻もタンカーがずっと列を作っていたのですが、もう来ていないんです。1隻も。ですので、今後日本に来るタンカーの入港は実質ほぼ0状態、少なくとも中東からの入港はほぼ0ということになってしまいます。
日本へのタンカーが0になるということは、日本への原油が0になるということです。港の近くに原油やタンカーはありますか? ここになければない、という状況です。これはかなり危機的な状況だと考えてください。
もう一つあります。仮に今すぐ海峡封鎖が解かれたとしても、タンカーが「ようやく日本に行けるぞ」と油を積んで日本に出発しても、ワープはできません。最初に海峡を通過し始めたタンカーが今から日本に来るのは、最短で3週間以上の時間がかかります。
過去のオイルショックや湾岸戦争などがありましたが、その時も中東からのタンカーが数週間0になるという事態は、戦後日本で一度も起きたことはありません。今、まさに戦後80年以降、国家レベルで最大級に深刻な状況が始まりつつあると認識していただきたいと思います。
「いや、でも確かにピンチの始まりかもしれないけど、備蓄があるでしょ。2月末時点で総理大臣が言ってたよ。原油の備蓄が254日分あるって。だからあと8ヶ月ぐらい、2026年の年末ぐらいまでは大丈夫なんじゃないの」と、こう思いたくなりますよね。
ところが、原油備蓄は254日分も実際にはありません。生活への影響はもっと早く起こります。ここからそのお話をしたいと思います。
日本では、石油備蓄法という法律で、国と民間に対して石油の備蓄を義務づけています。正式名称は「石油の備蓄の確保等に関する法律」ですが、これは1973年の第1次オイルショックの反省を元に作られたもので、まさに今のようなオイルショックと同じ状況で大いに役立ち始めています。
この状況は誰でも見られます。資源エネルギー庁が公開資料を出しています。「石油備蓄の現況」とスマホやパソコンで検索すれば出てきますので、ご覧いただきたいのですが、これによりますと、今、日本の国家備蓄146日分、民間備蓄101日分、産油国共同備蓄7日分、計254日分、量で言うと7157万kl。これだけの原油が日本国内にあるということです。
ただ厳密に言うと、これ備蓄しているのは原油そのものもいっぱいありますが、原油を加工した後の石油製品もあります。これらをひっくるめて254日分と言っているのですが、分かりやすくするため、ここでは分類せずに全部まとめて原油換算でお話をしていきたいと思います。そんなにずれる数字でもありません。
254日分の原油備蓄があるなら、254日間は平常通りの生活ができると思いたくなりますよね。ところがそういうわけではないのです。ではこの254日分は何なのか、という話をここからしていきたいと思います。
まず、日本の原油備蓄量は、昨年12月末現在で7157万kl、254日分です。これを割算すると、7157 ÷ 254 = 日本の法律で言っている1日分の原油の量は28.2万klということになります。
前回の動画では、日本における石油製品の消費量の内訳について細かくお話ししました。是非前回の動画と合わせてご覧いただきたいのですが、日本の年間石油製品の需要を示したグラフがあります。いろいろなものを使っています。ただ比較しづらいので、LPガスやアスファルトなどは原油と単位が違ったり液体・固体だったりしますので、全部原油換算にします。
そうすると、日本が1年間に必要とする原油の量は1億7500万klになります。これを1日あたりにすると、LPガス4.4万kl、ナフサ10.3万kl、ガソリン11.9万kl、灯油・ジェット燃料7.3万kl、軽油8.5万kl、重油A・B・C合わせて5.1万kl、その他アスファルト・潤滑油などいろいろありますが、全部合わせると1日あたり約47.9万kl。これだけあれば、私たちは普段通りの生活をして経済を回すことができます。
この47.9万klというのは、超大型タンカー(容量20万〜30万トン)の、あの皆さんがイメージする巨大なタンカーで言うと、毎日約2隻分が必要になります。日本は毎日、この巨大タンカー2隻分ぐらいの原油をジャブジャブ使って生活しているのです。だから毎日2隻タンカーが日本のどこかの港に入港してくれないと、生活を維持することができません。
でも今、ホルムズ海峡の方を見渡しても、今日・明日あたりに最後のタンカーが到着したら、その後はもう来ません。これはもう確定しています。タンカーが来なくなってしまうのが問題なのです。
さて、先ほど法律の話をしました。日本の法律でいう原油備蓄量は1日あたり28.2万kl。これが254日分あると言っています。でも実際の消費量・需要ベースで日本が1日に必要とする原油は47.9万klです。おかしいですよね。48万必要なのに法律では28万しかない、割合で言うと58%分しか備蓄していないことになります。
実は日本の原油備蓄254日分の中には、いくつかの項目が省かれているのです。法律でいう1日分28.2万klは、LPガスは対象外(別の法律で管理)、ナフサも対象外、国際線のジェット燃料も対象外です。対象になっているのはガソリン、軽油、灯油、国内線のジェット燃料、重油、その他で、これを合計すると約30.4万klぐらいになります。
つまり、日本の原油備蓄254日分というのは、国内で使う燃料だけが対象になっているのです。ナフサは石油製品消費の約2割を占め、プラスチックなどの原材料ですが、国の備蓄対象外です。両方合わせると大きな誤差になります。
日本の原油備蓄というのは、エネルギー供給に対する安全保障の一環で行っているものだ、ということが分かります。備蓄されている254日分の原油は燃料だけが対象です。でも私たちは燃料を飲んで生活しているわけではありません。衣類、眼鏡、傘、これ全部石油(特にナフサ)でできています。
燃料以外もひっくるめて普段通りの生活をしようと思ったら、実際には7157万kl ÷ 47.9万kl = 約149.4日分しかありません。備蓄だけで普段通りの生活をすると、枯渇まで約150日分しかないということです。
中東からのタンカーが止まっても「年末ぐらいまではいける」と思っていましたが、実際には5ヶ月分しか持たない。お盆ぐらいにはなくなる可能性があります。誤差が大きいのです。
さらに別の問題があります。備蓄されている原油は、全ての量が使えるわけではありません。物理的に使えない在庫、デッドストックがあるのです。
巨大な石油タンクの底にはスラッジという不純物や固まったものが溜まります。ポンプの吸い込み口より下に残っている液体は物理的に吸い上げられません。さらに巨大なパイプラインの中の原油も、最後の一滴まで絞り出すと再稼働に大変時間がかかるため、使えない量として残します。
日本の法律で定めている備蓄量は、このデッドストック込みの量です。IEA(国際エネルギー機関)の目安では、備蓄原油の10%はデッドストックなので除外すべきとされています。日本はデッドストック込みで計算していますが、経験則的に10%程度は使えないのが一般的です。
7157万kl × 0.9 = 実際に使える原油は約6441万kl。これを普段の消費量47.9万klで割ると、約134.5日分、つまり4.5ヶ月分しか持たない計算になります。
3月21日前後で中東から最後のタンカーが入港し、その後は輸入がほぼ0になります。254日分なら年末まで持つ計算ですが、実際には普段通り生活したら8月中には在庫が尽きる計算です。これはかなり大きな誤差です。
さらに、4.5ヶ月持たずに影響が生じ始める領域があります。それがナフサを原材料とするプラスチック・石油化学製品全般です。
ナフサとは何か。ありとあらゆる石油化学製品の原材料です。プラスチック、合成繊維、合成ゴム、塗料原料、合成洗剤など、私たちの生活に必要なものはほぼ全てナフサから作られています。産業の米、神の水とも言われます。
「プラスチックが大変ですね。でも人間はナフサを飲んでいるわけじゃないから、食べ物は大丈夫ですよね」「うちの日用品はオーガニックで紙や木だから関係ないですよね」と考えたくなるかもしれませんが、そういうわけにはいきません。
食品や木材製品はナフサが原料ではありませんが、それらをパッケージする包装資材は全部ナフサ由来です。袋がなくなったら出荷できなくなります。ダンボールや紙袋に変えても、輸送・販売に使う車両・資材・重機はナフサで作られています。ナフサが止まると現代文明が止まると言っても過言ではありません。
具体例として、美味しそうなホットドッグとホットコーヒーを考えてみましょう。
コーヒーカップの蓋はプラスチック=ナフサ。紙コップの内側コーティング、スティックシュガーのコーティング、レシート(熱感熱紙の塗料)、プラスチックトレー、おしりふき(ポリエステル)、おしりふきのビニール袋、ホットドッグを包む油をはじくコーティング紙、食材の仕入れ袋、ケチャップ・マスタードのボトル、コーヒー豆のアルミ袋……これら全てナフサです。
残るのは木のマドラーぐらいです。ナフサがなくなると、私たちの生活はここまで支配されています。
スーパーやコンビニの商品用コンテナ・パレットもほぼ全てナフサです。輸入が止まってもすぐ溶けたりはしませんが、劣化・破損で入れ替えが必要になった時、製造が止まっていれば買えません。じわじわボディブローのように効いてきます。
ナフサの供給が長時間止まると、食品・日用品・生活必需品のパッケージがなくなる。部屋の中を見渡してください。目に入るものほぼ全てナフサ由来です。コンビニ・スーパーに行っても同じです。これがなくなる恐れがあります。日常生活が本気で崩壊する可能性があります。
まだ崩壊していませんが、確実にその方向に向かっています。この意識は捨ててください。
日本の石油製品需要のうち、ナフサは消費量の62%を輸入で賄っています。その輸入の7割がホルムズ海峡経由です。タンカーが止まった瞬間、供給の7割がなくなります。さらに韓国からの輸入分も中東原油由来なので、輸入全体の85%程度が止まります。
国内で38%作っていますが、増産して対応することはできません。その理由を次でお話しします。
備蓄原油を製油所に持っていって精製すると、ガソリン、灯油、軽油、重油、ナフサなどが一定の割合で同時に生産されます。特定の製品だけを増やしたり減らしたりすることは物理的にできません。
原油の産地によって成分割合が変わります。特に今備蓄の多い中東産(アラビアンライト系)の場合、
中東産原油を普通に処理すると、半分近くが重油になってしまいます。一番欲しいナフサ・ガソリンは1割強しか取れません。
日本の1日必要量47.9万klに対して、単純に中東産原油を処理すると、ナフサ・ガソリンは大幅不足、重油は大幅余りになります。需要と供給が全く一致しません。
製油所では、重油や軽油を改質(水素化分解など)してガソリンやLPGなどに変換しますが、それでもナフサはあまり増えません。ナフサとガソリンは似た軽質留分なので、ナフサにするよりガソリンにした方が需要があるため、ガソリンに回されます。
だから平時でもナフサは大量に直接輸入(62%)しています。逆に軽油や重油の一部は輸出しています。
今回の危機で輸入ナフサが止まると、製油所は全体の処理量を減らします。LPガスはアメリカからなんとか調達可能ですが、ナフサはますます不足。ガソリンは自粛で需要減、ジェット燃料は夏で需要減、軽油・A重油は奪い合いになり不足、C重油は余ります。
ナフサを増産しようとしても、他の製品が一定割合で必ず生成されるため、ナフサだけを大幅に増やすことはできません。これが根本的な理由です。